映画『エイタロウ』観ました。役者魂を表現する勢いがとてつもないケミストリーを産んでいます。
実話ベースとベタのギャップで見える熱気
鹿児島を舞台に、契約社員と俳優業を両立する既婚の主人公。自身の身の振り方に迷った末、主人公は生き様をぶつけるべく舞台の公演を決断する…といったストーリー。

強く妙に真に迫った勢いが印象的。主人公が契約社員をしながら活動をしているのは役者本人の生涯そのままで、妻役も役者本人の妻だ。演技力に加えて勢いを感じるのは、実話「そのもの」がスクリーンに現れているからだろう。実際、映画としての撮影ではなく生活の一幕をそのまま使っているシーンもいくつかある。ライバルの社員が介護の仕事に転職するのだが、後のシーンで実際に本人が生活支援の仕事をしている時の映像が使われている。
伝えたい情報が多いためか、序盤からハイテンポな空気に圧倒される。ラジオドラマの収録や営業マンとしてのお仕事、家族サービスと地方で兼業する役者の複雑な生活を余さず盛り込む。そこに学生時代に演劇をした元カノと出会ったり会社の後輩が恩師の娘だったり、人間関係の要素も加わるので忙しい。少しトントン拍子過ぎて面白かったけど、マジな部分も浮き上がっていて納得してしまった。
リアルで複雑な現実とベタなストーリーが絡み合って、なんだかよく分からない熱気を浴びせられながらも主人公の葛藤そのものは上手く整理されていた。色々ありながらと、とにかく舞台を行えばスッキリすると観ている人に思わせる説得力はスゴイ。
クライマックスの劇中劇はそれまでと一転して、じっくりとした時間が流れる。短編の舞台をまるまる臨場感のあるカメラワークで映す。時間感覚のギャップもさることながら、主人公の生き様と西郷隆盛をうまくリンクさせていて巧み。
コアな鹿児島要素に注目
今作は『地方の兼業役者』がテーマなので、比較的ローカル映画感は少ない。地方を舞台にした映画の中には観光地や特産品を不自然に出すものもあるのだが、そのような面は少ない。シーンに出てくる風景は鹿児島の中でもさりげない場所がチョイスされている。そうなると、むしろマニアックな鹿児島ネタが入ってきてしまうのが難しいところ。
作中にはパチンコ店内のシーンがある。これは鹿児島がパチンコ店が多い事情に反映されているのかもしれない。人口あたりの店数は高知県に抜かれているが今もトップクラスだ。
また、スーパーのシーンでは「いきいきほうれん草」が流れているが、ロケ地の実店舗は実際にクセのある店内アナウンスが流れている。聴いたことがないアナウンスなので映画用に作られたものかもしれない。劇伴は鹿児島ゆかりのミュージシャンが作ったかっこいい曲が使われているが、町中のシーンのふとしたジングルもツボを掴みつつも現実には無さそうな感じなので要注目。
県民は隆盛を出すと伝わる
と、ここまで「エイタロウ」は鹿児島ローカル映画ではない前提で話を進めていた。しかし、冷静になると西郷隆盛は一番の鹿児島ネタだろう。
クライマックスの劇中劇は西郷隆盛の話で、西南戦争のことを知らないと難しいかも知れない。それまでの主人公のストーリーとうまく結びつけているので、作劇上の意味は理解できるだろう。そんな中、鹿児島県民は「西郷隆盛にそんな解釈があったのか…」と胸を熱くしているのである。鹿児島県民かそうでないかでアドバンテージが異なるのは確かだ。言い過ぎだが、我々って西郷隆盛だなぁと思うような映画だった。
鹿児島県である時点でニュートラルな評価が難しい。鹿児島県民以外の評価が気になる映画である。
地方の兼業役者がテーマなので、どうしてもローカル性が出てしまう。現実の俳優達の設定が入っているので妙なリアルさが出てしまう。話の骨子としてはとても分かりやすい中に面白い味がふんだんに染みていてこれまでに無い感覚だった。
独自の熱気を知りたい人に是非。

追記:語ったろう会レポート
10月9日、名山のスペース「めいざんち」で行われた。
各々感想や気になったところを話すと、出演者らが答えてくれるのでとても良い機会でした。
個人的に気になっていたのは県外の人の感想。舞台挨拶で東京に行っていた人もいるので、いろんな意見が聴けた模様。西郷隆盛の最期については県外の人もある程度知っているらしい。クライマックス(劇中劇)も、敗軍の将の物語として成立しているとのコメントを東京でもらったそうです。言われてみれば確かにそうです。
あと、劇中劇の部分とその前で役者の慣れ具合が異なるという感想が興味深かった。舞台のシーンだと役者は演りやすいものだと思っていたけど、そこに意味を考えるのは重要かも知れない。序盤のシーンは、映画にするかどうか決めずに撮ったという話もあった。本編では舞台をやるか否かの葛藤があったが、収録段階で映画にするのか別の媒体にするのかというライブ感があったらしい。つくづくリアルをそのまま使った作品だと思う。

映画の話以外では、このイベントの後に劇の稽古に行くと言う話や、近日に行われる公演の話があった。小松氏が所属する劇団鳴かず飛ばずの公演が11月2・3日にあるらしい。
いろんな意味て役者との距離感が近いイベントだった。


